車庫証明の所在図を作成する主な方法としては、手書きで作成する方法と地図ソフトで作成する方法の2種類ありますが、近頃はグーグルマップなど地図ソフトの普及によりインターネット上で公開されている地図を印刷して提出する方も増えてきているようです。
そこでこちらの記事では地図ソフトを使用して所在図を作成する場合の著作権法及び利用規約上の注意点について解説していきたいと思います。
地図ソフトで印刷した所在図を使用することはできる?
結論から言えば、地図ソフトを印刷して所在図として提出することは可能です。
ただし、地図ソフトを使用する場合は手書きの地図とは違い、事前に著作権法等のルールを把握しておかないと知らないうちに法律違反になってしまう可能性があるため注意が必要です。
また、サービス提供者によっては印刷による地図の使用を禁止又は使用の範囲を限定している場合があるため車庫証明の提出資料としての使用に適したサービスを利用することをおすすめします。
各都道府県警察のウェブサイトの車庫証明手続きに関する注意書きにも「地図ソフトを使用する場合は著作権法違反にならないようにしてください」「著作権者の利用許諾を得た地図を使用してください」などの記載がある場合もあるため、地図ソフトで所在図を作成する際は正しい使用方法を理解した上で利用するようにしましょう。
参考画像:福岡県警察(所在図・配置図の配布様式より抜粋)
次章より著作物を使用する際の具体的なルールについて解説していきます。
地図は著作権法上の著作物に該当するのか?
まず、著作権法についてかんたんに説明します。
著作権法第十条には、どのようなものが著作物に該当するのかが例示されています。
第六号には地図や図面も著作権法上の著作物であると示されていますので、グーグルマップやYahoo地図などの地図データは著作物ということになります。
(著作物の例示)
第十条 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物
九 プログラムの著作物
著作権法
続いて、著作権法には「著作物が自由に使える場合」が規定されていますが、各社の提供する地図データは車庫証明で使用する資料として自由に使えるでしょうか?
著作権法第三十条には以下のように私的使用に関する規定があります。
(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
著作権法
車庫証明の申請における使用が「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」に該当するかが問題となりますが、車庫証明の所在図は申請者本人だけでなく、警察署の職員、民間の委託業者等の手に渡る可能性のあるものですので私的使用には該当しない可能性が高いと言えます。
また、著作権法四十二条には以下の通り、裁判、行政手続き等における複製の規定があります。
(裁判手続等における複製)
第四十二条 著作物は、裁判手続のために必要と認められる場合及び立法又は行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 次に掲げる手続のために必要と認められる場合についても、前項と同様とする。
一 行政庁の行う特許、意匠若しくは商標に関する審査、実用新案に関する技術的な評価又は国際出願(特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律(昭和五十三年法律第三十号)第二条に規定する国際出願をいう。)に関する国際調査若しくは国際予備審査に関する手続
二 行政庁の行う品種(種苗法(平成十年法律第八十三号)第二条第二項に規定する品種をいう。)に関する審査又は登録品種(同法第二十条第一項に規定する登録品種をいう。)に関する調査に関する手続
三 行政庁の行う特定農林水産物等(特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(平成二十六年法律第八十四号)第二条第二項に規定する特定農林水産物等をいう。以下この号において同じ。)についての同法第六条の登録又は外国の特定農林水産物等についての同法第二十三条第一項の指定に関する手続
四 行政庁若しくは独立行政法人の行う薬事(医療機器(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第二条第四項に規定する医療機器をいう。)及び再生医療等製品(同条第九項に規定する再生医療等製品をいう。)に関する事項を含む。以下この号において同じ。)に関する審査若しくは調査又は行政庁若しくは独立行政法人に対する薬事に関する報告に関する手続
五 前各号に掲げるもののほか、これらに類するものとして政令で定める手続
著作権法
第2項で特許、品種登録などいくつかの行政手続きが挙げられていますが、これらの規定は基本的に行政庁が調査、審査等の手続きを行う際の内部資料としての複製に関して定めたものであり、また、自動車登録や車庫証明については特に何も規定されていませんので車庫証明の申請で地図を自由に複製できると解釈することはできません。
ここまでの内容を考慮すると、車庫証明申請における地図データの使用は著作物を自由に使える場合に該当しないと考えられるため、地図ソフトを提供する各社の利用規約に沿って地図データが使用可能か否かを判断していく必要があります。
次章からグーグルマップ、Yahoo地図、国土地理院地図など提供者別の利用規約について解説していきます。
まとめ
地図ソフトは著作権法上の著作物に該当し、車庫証明の提出資料として自由に複製することはできないため、権利者(地図データの提供者)の許諾を得るか、サービス毎の利用規約の範囲内で使用可能か否かを判断する必要がある。
グーグルマップは所在図作成で使用可能か?
グーグルマップは、「販売または利益目的」でなく、「利用規約」に従い、「権利帰属」が明確に表示されていれば自由に使用することが可能です。
車庫証明の所在図の作成は「販売または利益目的」ではありませんので商用利用の許諾を取る必要はありませんが、「利用規約」と「権利帰属」についてはしっかりと理解した上で使用する必要があります。
Google利用規約
Google利用規約には、法令の遵守、利用規約(追加規約含む)の遵守、他者の権利の尊重、不正利用の禁止などGoogleのサービス全般に関する内容が規定されています。
車庫証明の所在図の作成に関して利用を制限するような規定はありません。
Google マップ / Google Earth 追加利用規約
Google マップ / Google Earth 追加利用規約には、ライセンスの付与、禁止行為などに関する内容が規定されています。
ライセンスの項目には、「規約が遵守されている限り、適切な権利帰属を伴うコンテンツを、オンライン、動画形式、印刷形式で公開表示するライセンスを付与する」との記載がありますので権利帰属を適切に表示すれば車庫証明の所在図として印刷して使用しても問題ないと判断できます。
なお、追加規約にはいくつかの禁止行為が列挙されていますが車庫証明の所在図の作成を禁止するような規定はありません。
Google マップ & Google Earthガイドライン
Google マップ & Google Earthガイドラインには、商用目的以外における用途別の使用ルールが規定されています。
※商用目的でも一部の限定的な用途では使用可能です。
車庫証明の所在図作成での使用に関連する内容を以下にまとめました。
- 権利帰属(Google とデータ提供者)をコンテンツが表示されている間、明確に表示する必要がある
- 地図にポイント、ライン、ラベルなどの情報を追加することができる
- 地図の外観を大きく変えることは禁止
- レポート、報告資料として印刷して使用することは可能
以上の内容から、車庫証明の所在図の作成の利用範囲においては、権利帰属をしっかりと表示しておけば、地図データを印刷することも、自宅や保管場所の位置などの情報を追加して加工することも問題ないと言えます。
権利帰属表示のガイドライン
権利帰属表示のガイドラインには、権利帰属の表示に関するルールが規定されていますが日本語版は公開されていないため、以下に内容をかんたんにまとめました。
- Googleが提供するツール、機能を使用して出力すると自動で権利帰属が表示されます
- 帰属表示を隠したり、削除したり、切り抜いたりすることはできません
- スクリーンショット画像を使用する際は画像内に帰属表示が含まれるようにする。必要に応じて画像の近くにテキスト等で権利帰属を表示することも可能
- 画像と帰属表示を分離することは不可
- Google以外のデータプロバイダーの提供画像が含まれている場合はGoogleの名前とデータプロバイダーの権利帰属の両方を表示する
車庫証明の所在図として使用する場合は、別紙として印刷した地図画像を添付する方法と所在図・配置図の用紙に画像を埋め込む方法があります。
どちらの作成方法でも所在図として受理されますのでお好みの方法で印刷すれば問題ありません。
グーグルマップの印刷機能を使用して別紙として添付する
別紙として1枚の用紙に地図を印刷して使用する場合はグーグルマップの印刷機能を使用すると下の画像のように自動でGoogleのロゴとデータプロバイダーの権利帰属が表示されますのでそのまま使用することが可能です。
権利帰属の表示は枠外に記載されていますが、地図と切り離して使用することは規約違反となるためできません。
権利帰属の表示が含まれるようにスクリーンショットを取って用紙に埋め込む
所在図・配置図の用紙に埋め込む場合は、Googleのロゴとデータプロバイダーの帰属表示が含まれるようにスクリーンショットを取って埋め込むか、テキスト等で帰属表示を追記する方法がありますが、基本的にはスクリーンショットを取る段階で権利帰属の表示を含めた方が記載漏れの可能性を回避できるので安心です。
データプロバイダーの権利帰属表示について
サンプルの画像内では「地図データ©2023」と表示されていますが、この部分の表示内容はGoogle以外のデータ提供者の有無などにより異なります。2023年現在、日本国内においては基本的に同様の表示内容となっていますが、今後表示される内容が変わる可能性もあるためデータプロバイダーの社名などが表示される場合は必ずその情報も含めて表示するようにしてください。
国交省ワンストップサービス(OSS)での地図画像ファイル添付について
Googleの権利帰属表示のガイドラインによると、画像内に権利帰属表示が含まれるようにすればスクリーンショット画像を使用することも規約上問題ないと解釈することができるため、JPEGファイルでのアップロードが必要なOSS用の添付ファイルとして使用することも可能であると考えられます。
Yahoo地図は所在図作成で使用可能か?
結論から言うと、Yahoo地図を車庫証明の所在図として印刷して使用することはおすすめしません。
Yahoo地図には印刷機能がありますので、機能的には所在図として印刷して添付することは容易です。
しかし、Yahoo地図の利用規約及びガイドラインには地図を印刷して使用することを原則認めない旨の規定があります。
Yahoo! JAPAN利用規約
Yahoo! JAPAN利用規約第1編 基本ガイドラインには、法令の遵守、他者の権利の尊重、不正利用の禁止などYahoo! JAPANの提供するサービス全般に関する内容が規定されています。
Yahoo!地図の利用範囲については特に言及されていません。
Yahoo!地図ガイドライン
Yahoo!地図ガイドラインには、「法令によって認められる場合」と「報道機関における取材でのご利用の場合で当社が許諾した場合」のみ二次利用が可能であると規定されています。
先述した通り、車庫証明申請において地図を使用することは、法律上自由に著作物を使える場合に該当しない可能性が高いため、所在図としてYahoo地図を使用することはできないと解釈できます。
Yahoo!地図ヘルプ
Yahoo!地図ヘルプには、印刷広告・ちらし、その他の種類の印刷物いずれにおいても私的使用の場合を除き二次利用を認めていない旨が説明されています。
こちらの規定からも車庫証明の所在図としてYahoo地図を使用することはできないと判断できます。
以上がYahoo地図利用規約の解説です。
警察署が各社の利用規約をどの程度把握しているか不明ですが、Yahoo地図の規約上では地図を所在図として使用することは認められないため、他のサービスを利用して所在図を作成することをおすすめします。
国交省ワンストップサービス(OSS)での地図画像ファイル添付について
Yahoo!地図ガイドライン及びYahoo!地図ヘルプには、スクリーンショット画像の使用を明確に禁止する規定はありませんが、Yahoo! JAPANが許可している方法による場合以外で閲覧以外の目的でコンテンツを複製することを禁止する旨の規定がありますので、JPEGファイルでのアップロードが必要なOSS用の添付ファイルとして使用することも禁止されていると考えられます。
国土地理院地図は所在図作成で使用可能か?
国土地理院の地図は出典を明示することで車庫証明の所在図として使用することが可能です。
商用利用でも使用可能であるため、弊所の所在図・配置図作成サービスにおいても所在図は地理院地図を使用して作成しています。
国土地理院コンテンツ利用規約
国土地理院コンテンツ利用規約にはコンテンツの利用ルールが規定されています。
利用ルールには、承認申請が必要な場合と出典の明示だけで利用できる場合の二通りがあり、地図の利用手続パンフレットを確認すると車庫証明の所在図としての使用は「成果品を不特定多数の者に提供する」に該当しないため承認申請は不要で出典の明示のみで使用可能であると判断できます。
国土地理院の地図を利用する際の出典の記載と記載例
国土地理院の地図を利用する際の出典の記載と記載例には出典の記載のルールが規定されています。
所在図として使用する場合は、自宅や保管場所の位置を追記するなど地図の加工を要するため「出典の記載」と「編集・加工したことの記載」の両方を表示する必要があります。
地理院地図の印刷機能を利用して別紙として添付する
国土地理院地図には自動で出典を表記する機能がないため利用者が自ら出典を記載する必要があります。
地図の右上の「ツール」内の「作図・ファイル」の機能を使用してテキストや図形の挿入をすることが可能です。
文字が小さくて少し見えにくいかもしれませんが左下に出典と加工を明示しています。
出典の明示については決められた記載ルールはありませんが記載例として1行目に「出典:国土地理院地図(https://maps.gsi.go.jp/)」と2行目に「国土地理院地図データを加工して作成」と表示しています。
スクリーンショットを取って所在図・配置図の用紙に埋め込む
スクリーンショット画像を使用して用紙に埋め込む場合も出典と編集・加工したことを表示すれば問題ありません。
テキストの挿入は地図の機能でテキストを入れるか、画像を取り込んだ後にエクセルやワードなどでテキストを挿入しても大丈夫です。
※警察がインターネットで配布している所在図・配置図のファイル形式は都道府県により異なります。(excelとpdfで配布しているところが多いです。)
国交省ワンストップサービス(OSS)での地図画像ファイル添付について
国土地理院地図は出典の表示および編集・加工したことが表示されていればスクリーンショット画像を使用することも規約上問題ないと解釈することができるため、JPEGファイルでのアップロードが必要なOSS用の添付ファイルとして使用することも可能であると考えられます。
まとめ
地図ソフトを使用して車庫証明の所在図を作成する際の注意点の解説は以上です。
最後に各サービスの車庫証明申請における用途別の使用の可不可を表にまとめましたのでよろしければ参考にしてください。
窓口申請(印刷) | OSS(JPEG) | 商用 | |
Googleマップ | ※1 | ※1 | ※2 |
Yahoo地図 | |||
国土地理院地図 | ※3 | ※3 | ※3 |
※1)権利帰属を明示することで使用可能となります。
※2)定期刊行物、ウェブ上での埋め込みなど限定的な用途を除き利益目的の使用は個別に許諾を得る必要があります。
※3)出典及び編集・加工したことを表示することで使用可能となります。
所在図・配置図作成代行|きさらぎ行政書士事務所
きさらぎ行政書士事務所では所在図・配置図の作成代行のサービスを提供しております。
「誰か代わりに車庫証明の図面を作成してほしい」とお考えの方はご興味があればぜひご利用をご検討ください。
お申込みはお電話不要でWEBフォームから2分程度で完了します。